リサーチフォーラム in 大阪 戦後美術教育の歴史的検討―戦後美術教育は何であったのか
2025年6月18日 05時23分 [Tetsuka]日時:2025年7月12日(土)13:00~16:00 (終了後に懇親会を予定)
会場:サクラアートミュージアム・サクラクレパス
- 〒540-8508 大阪市中央区森ノ宮中央1-6-20
- 最寄駅 JR線or 地下鉄中央線「森ノ宮」
実施形態:ハイブリッド
後援:サクラクレパス
参加費:無料
定員:50名
申込方法:
▶対面による参加:美術教育史研究所HPに記載されているメールアドレスへ7/7までにお申込ください。
▶オンラインによる参加:Peatixによる事前申込。
・ライブ配信のみ予定(録音・録画不可)。
・参加時は顔・氏名・所属を要表示。
・会場参加者のみの協議の時間と配付贈呈資料も用意しています。
▶概要は、美術教育史研究所: https://kazuo-kaneko.net/(金子一夫個人HP)に掲載します。
1.趣旨 未来は過去と現在を基礎としないと描けない。戦後80年たった,そして美術科教育学会は創立50周年を目前に控えている。今後の美術教育を考えるため戦後美術教育史の個別研究成果を発表し参加者と検討する。今回は,美術教育学史,美術教育運動史,地方美術教育史、美術教育材料史の個別的研究成果を用意する。
今回の会合と連動して,12/20に代表:永守基樹,コーディネーター:北野諒・清家颯による「2025年度リサーチフォーラムin大阪―21世紀における造形遊びの再布置化へ向けて」同会場で開催予定である。
2.発表者と発表題目 その他
金子一夫 基調提案 戦後美術教育史研究の諸視点
有田洋子 戦後美術教育学の制度基盤の形成過程 〔美術教育学史〕
新井哲夫 戦後の美術教育運動 創造美育協会を中心に 〔美術教育運動史〕
長瀬達也 戦後地方美術教育団体の結成 秋田県における諸相 〔地方美術教育史〕
金子一夫 材料史的美術教育史 戦後初期の不透明水彩への転換 〔美術教育材料史〕
サクラアートミュージアム学芸員清水靖子氏のコメント
菊地虹 技術支援等スタッフ
3.基調提案
戦後美術教育史上の個別的問題の研究は,少ないながらある。ただ戦後美術教育全体を見通す通史的研究はほとんどない。そこ戦後美術教育史全体を考える上の①枠組みと②諸問題を本リサーチフォーラムで検討したい。まず①として戦後美術教育史をいわゆる戦後的前提の呪縛を脱して冷静客観的に捉えたい1)。戦後的前提とは昭和20年8月を歴史的断絶と捉える視点,すなわちそこを歴史的起点として戦後美術教育史を構想する視点,教育理念における科学合理主義・民主主義・人間主義といった価値を自明とする視点である。これは何もそれらを否定するのではなく,それらを括弧に入れて相対化することである。
① 冷静に見れば昭和16年に美術教育内容の急激な高度化があり,それが戦後に継続している。戦後に戦時的題材は無くなったとはいえ,戦後的な美術教育は戦時下で始まっている。児童尊重の明瞭な意識も発生している。他教科の有力な実践者たちも戦時体制下で教科教育の大きな転換があったとしている2)。逆に教育内容は混乱・低下したかもしれない。戦前のほとんどの教員が戦後に継続したのであるから,敗戦への反省が断絶をもたらしたと強調するのは現実を見誤る。多くの人にあった戦前の超越的価値が空白となり,その空白に先の科学合理主義・民主主義・人間主義が埋めた。現在,それらの価値は現実によって虐げられている。
生産社会・消費社会・高度情報社会という社会史区分に見田宗介・大沢真幸のABCの戦後社会区分を勘案する。
1.生産社会 昭13~51 戦後前期 A理想・夢の時代 ①戦時下 ②生活 ③創造認識造造形 ④系統
2.消費社会 昭52~平1戦後後期 B虚構の時代 ①感性 ②意欲 ③表出
3.高度情報社会 平20~ 現在 C不可能性の時代 現実への逃避 ①脱表出
以上のようにすると戦後絶対論から脱し,現在の課題も見えてくる。すなわち,未解決問題を完結させる供養としての美術教育史,超越的なものの回復,高度情報に対応する美術教育などである。
② 戦後美術教育における問題群を暫定的に以下のように捉える。もちろんこれらは相対的に独立しているだけで,現実や研究においては,入り混じっている。
哲学・思想位相: 美術教育学 美術教育思想 美術教育思想史 など
社会・制度位相: 美術教育史 美術教育制度 学習指導要領 など
組織・運動位相: 民間教育運動 地方美術教育 数量的運動把握 など
教材・素材位相: 美術教科書 美術教育教材 美術教育素材 など
1) 金子一夫「戦時下図画・工作科の美術史的位置―通念的戦後像から生産・消費社会像への転換」『美術教育学』45. 2024. pp.91-102.
2) 岩浅農也『教科教育の百年』明治図書出版, 1973.