書評(吉川佳英子『『失われた時を求めて』と女性たち』)
吉川佳英子『『失われた時を求めて』と女性たち』(彩流社、2016年)の書評(自著紹介)が届きました。こちらからご覧ください。
吉川佳英子『『失われた時を求めて』と女性たち』(彩流社、2016年)の書評(自著紹介)が届きました。こちらからご覧ください。
研究情報委員会では、年二回刊行の学会広報誌cahierに書評を掲載してまいりましたが、今後、このcahierの書評に加えて、学会HP上のcahier 電子版(Site Web cahier)に「書評コーナー」を設け、以下の要領で随時募集した書評をよりタイムリーに電子版に掲載していくことにいたしました。奮ってご執筆いただければ幸いです。
・ 書評対象:原則として、過去1年間に刊行され、その内容から広く紹介するに相応しい学会員による著作を対象とする。翻訳なども含み、日本で刊行された著作には限らない。フランス文化、映画などに関する著作も排除しない。
・ 学会員による他薦あるいは自薦(自薦の書評も受け付けます)
・ 字数:(著書名・書名・出版社名・発行年等を除いて)800字以内
・ 締め切り:随時受付
・ 宛先:研究情報委員会(cahier_sjllf[at]yahoo.co.jp([at]を@に代えてください)) までメールでお送りください。
掲載の適否は委員会で判断させていただきます。なお、これらの書評のうち広報誌cahierにも掲載するに相応しいと委員会で判断したものについては、他薦の場合は執筆者にcahier用に2000字程度に手直しをお願いすることがあります。また、自薦の場合は委員会で執筆者を選定して依頼いたします。
NAKAMURA Keisuke, Problèmes typiques des apprenants japonophones du français
評者:原田早苗
駿河台出版社、2004年
応用言語学の誤答分析の分野では、一般的にはマイナス要素とみられる誤りが、実際は学習の過程において不可欠であり、中間言語に関する有益な情報を含んでいると考える。著者は正にその観点にたっており、学生のつまずきをフランス語と日本語の言語の違い、学習段階、文化的背景などによって説明している。フランス語としては確かに間違いであるが、学習者の思考に沿ってみれば理にかなっているものが多いと考える姿勢が、本書において一貫してみられる。
著者は間違いの原因を探るだけでなく、その分析結果の授業への応用についても言及している。例えば、他動詞や自動詞、直接目的語や間接目的語といった構文にまつわる概念を、動作で視覚的に説明することが提案されている。また、日本人にとって難しいattirerやdérangerといった無生物主語をとり得る動詞についても、多くの事例を出しながら触れている。作文の実際の添削例が紹介されているのも、大変参考になる。
文法や語彙の問題のほかに、プロソディも取り上げられている。プロソディと文法、そして意味が密接に絡み合っていることを、どのようにしたら学習者に意識させることができるだろうか。新情報と旧情報の概念を導入することによって、文末にくる新情報を強調することの重要性を学生も理解しやすいのではないか、と提案する。代名詞の強勢形の存在理由をプロソディの面から説明しているあたりも面白く、このような説明を受ければ、代名詞の種類の多さに混乱している学習者も納得するだろう。
本書は論文集であるが、二部に分かれており、以上に紹介した興味深いテーマは第一部で扱われている。第二部は、著者がRencontres Pédagogiques du Kansaiで開いたアトリエをベースにしている。著者が自ら作成したテキストの工夫点やBonjourと 「こんにちは」、caféと「喫茶店」をめぐっての文化論が展開されている。著者が長年にわたっていかに多くのデータを蓄積し、分析してきたかがわかる多彩な内容である。
本書のもうひとつの魅力は、扱われている具体例の多さである。例えば、「彼らは結婚して何年になりますか」の和文仏訳について、学生の作文から拾った26通りの文が紹介されている。「何年になりますか」の訳で苦しんでいること、アスペクトと時制を理解していないことがよくわかる。このように、事例が豊富で、かつ読みやすい文体なので、教員だけでなく、フランス語教育に興味のある学生にも薦めたい。また、本書はフランス語で執筆されているので、フランス人あるいはフランス語圏の教員も読むことができ、それによって日本人学習者への理解が深まるに違いない。
最後に紹介するのは本書の一節だが、学生とこのような信頼と喜びを共有できるような教員になりたい、と切に思う。
Et notre travail dans ces exercices, ce n'est pas simplement de corriger leurs phrases, mais surtout de chercher les raisons de leurs fautes. Quand nous sommes capables de les expliquer, les étudiants ont davantage de confiance en nous et plus de plaisir à dépasser leurs difficultés. (p.15)